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AIエージェントの9割は、コーディングじゃない — 120万件のデータが示す、中小企業の本当の使いどころ

AIエージェントの9割は、コーディングじゃない — 120万件のデータが示す、中小企業の本当の使いどころ

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カテゴリ: AI活用
約7分で読めます
最終更新: 2026年7月16日


はじめに

「AIって、エンジニアの人が使うものでしょう。うちには関係ないかな」——中小企業の経営者の方から、よくそう伺います。

無理もないと思います。ニュースで見るAIの話題は、コードを書く話ばかりに見えますから。

ですが2026年7月7日、この前提を正面から崩すデータが出ました。しかも、出したのはAIを作っている会社そのものです。あるAIエージェントの実際の使われ方を調べたところ、ソフトウェア開発の用途は全体のたった8.7%しかありませんでした。

ここでいうAIエージェントとは、質問に答えるだけの従来のAIから一歩進んで、頼んだ作業を自分で手を動かして進めてくれるタイプを指します。「この資料をまとめておいて」と頼むと、調べて・書いて・整えて返してくれる、という道具です。

この記事では、その数字を確かめたうえで、実際に何に使われているのか、中小企業がどこから手をつければいいのかを、順を追って見ていきます。


「9割超はプログラム開発以外」— 作っている会社自身のデータ

まず、この調査が「どこの・いつ・誰に・どう調べた数字か」を整理します。

項目 内容
出どころ AIエージェント「Claude Cowork」の開発元(Anthropic社)の公式ブログ
公開日 2026年7月7日
対象 約120万セッション(利用1件=1セッション。ただし全部ではなく、一部を抜き出したもの)
期間 2026年5月11日〜31日
範囲 60万を超える組織
分類方法 個々のやり取りは人が読まず、専用ツールが用途を自動分類(プライバシーに配慮した方法)

そのうえで、何に使われていたか、の内訳です。

使いみち 割合
業務プロセス・オペレーション(書類づくり、整理など) 33.4%
コンテンツ制作(記事や案内文など) 16.4%
ソフトウェア開発 8.7%

AIエージェントの用途内訳(構成比)

開発元自身が「9割超はソフトウェア開発ではなかった」と述べています。上位2つ——業務オペレーションとコンテンツ制作——を足すと、およそ半分に達します。作っている当事者が、自社のデータをもとに「これはエンジニア専用の道具ではない」と言っているわけです。

この数字の弱点

この数字には、いくつか弱点もあります。

  • 全部ではなく、一部を抜き出したデータです。「120万セッションすべてを分析した」と書いてある記事があれば、それは正確ではありません
  • 3週間ぶんです。2026年5月11日〜31日という一時期のスナップショットで、季節による違いやその後の変化は反映されていません
  • 機械が自動でつけた分類です。使った人が申告したのではなく、ツールがラベルをつけています
  • 作っている会社自身のデータです。自社製品の使われ方を、自社が発表している点は踏まえておく必要があります

それでもこのデータに価値があるのは、「AIはエンジニアのもの」という通念を、いちばん否定する動機がないはずの側が否定しているからです。エンジニア以外にも広く使われていると分かって困る人がいるとすれば、それはAIベンダーではありません。


では、日本の中小企業では、どうか

「海外のツールの話でしょう。うちとは違う」と感じられたかもしれません。そこで、日本の中小企業を対象にした別の調査を重ねてみます。

ある会社が2026年7月9日に公表した調査です(従業員2〜100人の企業に勤める方が対象、300人に回答、第三者機関によるインターネット調査、調査実施は2026年5月29日〜6月1日)。

この調査で、いちばん重い数字がこれです。

経営層(代表・役員)のAI利用状況 「活用の方針も推進体制もない」企業の割合
AIをまったく使っていない 85.7%
AIを積極的に活用している 4.0%

社長がAIを使う会社と使わない会社の差(約21倍)

社長がAIに触っていない会社では、8割以上に方針も体制もない。触っている会社では、それが4.0%。差はおよそ21倍です。

ただし、これは相関であって、因果ではありません。「社長が使えば体制ができる」のか「体制がある会社の社長は使う」のかは、この調査だけでは決められません。それでも、社長のAI利用と組織の推進体制が強く一緒に動いていることは読み取れます。

この数字の弱点

  • 細かく分けたあとの回答数は公表されていません。全体で300人、それを社長の利用状況で分けた先の数字なので、それぞれは数十人ずつの可能性があります。「85.7%」という小数点以下の精度を、額面どおり重く受け取らないほうがよいでしょう
  • この調査を出したのは、中小企業向けサービスの事業者です。自社の市場について語る立場がある点は踏まえておきます

この数字は、断定のためではなく、「社長本人が触っていない会社では、組織も動いていないことが多い」という傾向をつかむために使っています。


いちばん誤解されやすい数字の話

この調査には、もうひとつよく引用される数字があります。「AIは必要ない」と答えた人を職種別に見ると、「経営・経営企画」が45.3%で最多、というものです。

ここは間違えやすいので、正確に書きます。この45.3%は、「経営者の45.3%がAIを不要と考えている」という意味ではありません。

正しくは、「必要ない」と答えた人たちを職種で分けたとき、そのうち45.3%が経営・経営企画だった、という内訳の割合(構成比)です。しかも複数回答なので、職種を全部足すと100%を超えます(およそ119%)。さらにこの層は「AIを使っていない人」の中の「必要ないと答えた人」という二段階しぼった先で、もとの人数は公表されていません。

「経営者の45.3%がAI不要と回答」と書けば、記事は強く見えます。ですが、それは事実とは違います。ひっくり返した引用を、実際によく見かけます。


「AIで人が減るのでは」という不安について

AI導入のご相談で、経営者の方がいちばん口にされる心配は、性能でも費用でもありません。「AIを入れたら、人が要らなくなる、という話になりませんか」です。

この点で、ひとつ参考になる出来事があります。2026年7月14日、建設現場向けの機械を手がけるある会社(TerraFirma)が、大きな資金調達を発表しました(投資会社Kleiner Perkinsが中心となった1億ドルの出資、総額では約1億1,500万ドル)。今ある重機を後づけで改造し、遠隔から半自動で動かせるようにする会社です。

注目したいのは金額ではなく、この会社が資金を引き寄せた掲げ方のほうです。同社が打ち出しているのは「熟練の職人を置き換える」ではなく、「職人1人あたりの実効性を、最大300%高める」(同社の主張であり、第三者が検証した数字ではありません)。

海外の建設スタートアップの話なので、そのまま日本の中小企業に当てはまるわけではありません。それでも、人を減らすのではなく1人の力を何倍にもする、という向きは参考になります。人手不足の現場が困っているのは、多くの場合「採用できない」ことであって、「減らせない」ことではないからです。


では、私たち自身は、何に使っているのか

ここまで他社の数字を並べてきたので、最後は自分たちの話をします。

正直に言うと、MoruAppは顧客情報の管理を除いて、ほぼすべての業務でAIを使っています。ソフトウェア開発でもがっつり使いますし(このサイトもAIと一緒に作りました)、私たちにとってAIは、もう仕事の前提です。

そのうえで、この記事の主題——AIはエンジニアだけの道具ではない——に照らして見ていただきたいのは、開発ではない“ふつうの業務”のほうです。同じ中小企業として、日々AIに任せているものを並べます。

仕事 内容
経理の仕分け カードやネット通販の明細を読み、費目に振り分けて、会計ソフト用のデータにする
経営判断の材料集め 届いたメールや気づきのメモを集め、裏づけをつけて、判断用の資料にまとめる
情報収集 毎朝、AI・法規制・国の政策・スタートアップ動向などを集め、出典つきのレポートにする
記事の下調べ まさにこの記事のもとになった調査。数字の大もとをたどる作業も含みます
契約書・規程の手直し 書式を崩さずに、条文だけを直す

ここに挙げたのは、どれも開発とは関係のない業務です。経理、情報集め、資料づくり、書類の手直し——業種を問わず、どんな会社にもある仕事です。開発でAIを使うのはエンジニアのいる会社に限られますが、こうした業務なら、そうでない会社でもすぐ始められます。

なお、顧客情報の管理だけはAIから外しています。お預かりした個人情報を、安易に外部のサービスへ通さないためです。「何をAIに載せ、何を載せないか」を先に決めておくことも、導入の一部だと考えています。

ただし、正確には

「だからプログラミングの知識は要りません」と締めたいところですが、それは正確ではありません。

指示そのものは日本語で書いていますが、一部の定型処理には、補助として小さなプログラム(スクリプト)を併用しています。経理の集計や、書式を崩さずに文書を直す処理には、裏側で小さなプログラムが動いています。「日本語でお願いするだけで、何もかも全部やってくれる」わけではありません。

とはいえ、ここで挙げた仕事そのものは「開発」ではありません。経理は経理、資料づくりは資料づくりです。AIを使う場面は開発だけではない——先ほどのデータがソフトウェア開発8.7%とそれ以外9割超に分けていたのも、その広がりを示しています。

そして、最初の1件にプログラミングは要りません。私たちがAIに任せた仕事も、はじめは日本語の指示だけで始めています。スクリプトは、くり返すうちに「ここは毎回同じだ」と分かった部分だけを、あとから固めたものです。順番を逆にしてスクリプトから作り込もうとすると、たいてい回り道になります。


最初の1回に、何を触ればいいか

「では、何から始めれば」というご質問に、私たちがお勧めしている考え方を3つ挙げます。

① 社長ご自身の仕事から選ぶ

現場に配るより先に、社長ご本人の手元の作業を1つ載せてみてください。さきほどの21倍の差が示していたのは、社長が触っていない会社では組織も動かない、という傾向でした。部下に「AIを検討しておいて」と指示するのは、実はいちばん動きにくい進め方です。

② 「毎週やっていて・面倒で・失敗しても大ごとにならない」ものを選ぶ

最初の1件に、会社の根幹の業務やお客様対応を選ぶと、うまくいかなかったときに事故になります。毎週くり返していて、時間を食っていて、失敗しても取り返しがつく——この3つがそろう作業が向いています。資料の下書き、議事録の整理、決まった案内メールのたたき台などが典型です。

③ 「速くする」だけを目的にしない

AIを入れる目的は「業務効率化・時短」が大多数です。ただ、効率化そのものは、しばらくすると当たり前になります。その先に「品質を上げる」「これまでできなかったことをやる」という目的を置けるかどうかで、効果は変わってきます。この点は、公的調査のデータとあわせて姉妹記事「中小企業の83.3%が『事例がわからない』」で詳しく触れています。


まとめ

  • AIエージェントの使いみちは、開発元自身のデータでソフトウェア開発が8.7%。9割超はそれ以外(業務オペレーション33.4%、コンテンツ制作16.4%)
  • ただしこれは一部を抜き出したデータ(2026年5月11〜31日、60万組織超、自動分類)で、全部ではありません
  • 日本の中小企業では、社長がAIを使っていない会社の85.7%に方針も体制もない(積極活用の会社では4.0%)。ただし細かく分けた先の回答数は非公表
  • 「経営・経営企画の45.3%」は構成比であって、「経営者の45.3%が不要と考えている」ではありません
  • 資金が集まっている掲げ方は「置き換える」ではなく「1人を3倍にする」
  • 私たちは、顧客情報の管理を除くほぼすべての業務でAIを使っている(ソフトウェア開発も含む)。非エンジニアの会社がまず始めやすいのは、経理や資料づくりのような開発以外の業務
  • 最初の1件は、社長ご自身の仕事から/毎週やっていて/失敗しても大ごとにならないもの

「AIはエンジニアのもの」という前提は、AIを作っている会社のデータが否定しています。9割超の使われ方は、経理であり、資料づくりであり、日々の事務作業です。御社にもある仕事のはずです。

自社のどの仕事をAIに載せられるか、を一緒に洗い出すところから承っています。研修ではなく、実際に動くものを1つ作るところまでご一緒するのが、私たちの進め方です。ご興味があれば、お問い合わせください。


参考・出典

この記事の数値は、執筆時点(2026年7月16日)に各出典の原本で確認したものです。調査結果の正確な定義・対象・調査時期は、各出典の原本をご確認ください。TerraFirmaの「最大300%」は同社の主張であり、第三者による検証値ではありません。

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